黒 の 主 〜運命の章〜





  【13】



 得意気に言う彼女の言葉だが、それを聞けば当然エルとしては思う事がある。つまり――最初から荷物は全部その中に入れて歩けば良かったんじゃないか、と。特に時間の流れ云々というなら、食料等の日持ち問題があるものを入れれば楽になる。

 だが、そう思っていたのが顔に出たのか、それともそれくらいはお見通しという奴か、セイネリアがこっそり横で言ってきた。

「あの空間を作ったのがあの女なら、あの中に入れたものはあの女の気分一つで取り出せなくなる、という事でもあるだろ?」

 あぁ確かに――思ってエルは溜息をついた。あの女魔法使いに、なくなったら困るような荷物を預ける気かと言われればそれは確かに却下だ。

「ともかく、見つかった資料は全部この中に入れればいいのよ。貴方たちに運べなんて言わないから安心して頂戴。あぁ別に資料以外でもかさばる荷物があればこの中に入れてくれていいわよ」

 かさばる荷物、というのを現時点で持っていない段階で、それはこちら側が遺跡で見つけて持ち帰りたいと思ったものの事となる。それは謹んで辞退させていただくわな、とエルは思う。こちらが手に入れたものを全部あの中に入れてこちらが死ねば、それらは全てあの女のモノとなるという事なのだから。

 ともかく、そうしてメルーが偉そうに倉庫の使い方を教えてくれたおかげで更に時間が遅くなった。説明が終わると同時に夕飯の支度を急いですべきだと動きだそうとした皆だがここでまた一つ、メルーと揉める事になった。

「家があるのに何故外で寝る必要があるの? 中の暖炉が使えるから調理も全部中でやれば安全でしょ」
「そもそも中が安全かどうか分からない」
「ちゃんと調べたわよ! それで大丈夫だって言ってるじゃない!」

 家の中の方が得体がしれない分危険だ、という意見はクリムゾンからだった。その気持ちは分かるところだが、エルとしてはサーフェスとセイネリアが中でも大丈夫だろと言ったのもあって雇い主に従う方で決定とした。クリムゾンも決まれば決まったであっさりこちらに従うと言ったから、どうにか皆揃って家の中へは入る事になる。
 ……まぁそのせいで、折角準備してもらったこの周囲への結界は破棄して改めて家を媒体として結界を張れ、というのを当然のように弟子に命令していたメルーにはちょっとエルはキレそうになったが。アリエラ本人が大人しく従ったため、ぐっと抑えただけの事だ。

 ただ、それでどうにか夕食まで食べて、さて寝るかと言ったところでエルはまたメルーと揉める事になった。

「じゃぁそこの部屋は私とアリエラが使うわ、あとはテキトーに割振って使っていいわよ」
「待て、見張りもなしかい。そんならせめて、皆同じ部屋で寝た方がいいんじゃねぇか」
「折角部屋が複数あるんだもの、久しぶりにむさいあんた達の顔なんかみないでゆーっくり寝たいわよ。いーい、雇い主は私なんですからね、この程度はこっちの言い分聞いて貰うわよ。だーい丈夫よ、ちゃんと家の中は調べたし、アリエラの結界があるんですもの。皆今日はゆっくり寝ればいいじゃない」

 ……これも結局は彼女の言い分を通したが、エルはとにかくこの我が儘放題の女魔法使いと皆の間に入るのに疲れた。パーティー内でこの手のポジションを務める事は慣れているとはいえ、それでもとんでもなく疲れた。

 とはいえ、彼女の我が儘が通って結果的にエルにとって良かったこともある。

「ンじゃ、そっちの奥の部屋はセイネリアとラスハルカ、んでその隣はサーフェスとクリムゾンで使え、俺とウラハッドはここで寝るから何かあったらこっち出てきてくれ」

 普通ならわざわざ見張り用で作った2人組をここで変更するなんて事はない。だが女同士という点でも当たり前だが、メルーがアリエラと一緒に部屋に入ってくれたおかげで変更せざる得なくなった。
 だからエルはここで自分の都合のいいように組み合わせを決めた。

 そう、エルがこの仕事をどうしても受けたかった理由――それはこの、ウラハッドに聞きたい事があったからだった。




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