黒 の 主 〜騎士団の章・二〜 【16】 ステバンとのやりとりをした4日後、第三予備隊がトーラン砦へ行く日付が伝えられ、そこから10日後にセイネリア達はトーラン砦へと出発した。 今回トーラン砦へと派遣される人数は全部で33人。内訳としては、第三予備隊が隊長、文官を含めて12人、傭兵が20人と、案内役1人というところだ。 今回は大きな戦闘のために部隊を派遣するというよりも、トーラン砦の砦兵を休ませるための一時的な交代要員として派遣される事になっているため、騎士団として出す部隊は1部隊だけの少人数での派遣となる。 ただしそれに傭兵部隊をつけたのは、砦兵を交代させる前に一度全力で蛮族を叩いて暫く大人しくさせるという計画があるからだそうで、単なる砦勤務だけではなくそれなりの規模の戦闘に駆り出されるのは確定と言えた。 ちなみに最初から大規模な戦闘の援軍として人を送る場合も、それを騎士団員だけで行う事はまずない。その場合も今回のように騎士団員の同数〜3倍程度の人数の傭兵を付けるのが基本である。一応は戦場慣れした傭兵達と管理する騎士団員という構成らしいが、その傭兵側で仕事を受けていたセイネリアからすれば、騎士団員はこちらを管理するというより足を引っ張る事が多いお荷物のイメージだ。 その使えない騎士団員側に今はセイネリアがいるというのが皮肉な話だが。 ただ、騎士団に入ったことで暫く冒険者間の話題から遠ざかっていた団員達と違って、今回傭兵枠で付いてきていた連中はセイネリアの噂を知っていた。 「あの、失礼ですがお伺いしていいでしょうか? もしかしてセイネリアという人物は……上級冒険者のあのセイネリアでしょうか?」 首都からトーラン砦まで、馬に乗った騎士団員と徒歩の傭兵部隊で向かうと4日程掛かる。ただしこれは途中コザの街のクーア神殿でトーラン砦に近いパスカッドの街まで転送して貰う前提だからで、4日の内の3日はコザの街までに掛かる時間である。 そのコザへ向かう道中、首都を出て二日目のある休憩地点で傭兵側のリーダーがそう聞いてきた事があった。 「そっちが言うセイネリアが、上級冒険者で最近騎士になったセイネリア・クロッセスでいいならこの隊にいるあの男だ」 聞かれたのはバルドーだったから彼がそう答えてセイネリアを指せば、傭兵の男は礼を言って仲間の元に帰って行った。その後向うで騒いでいたからか、バルドーがこちらへ来て、さすが有名人、と言ってきた。 とはいえその後の道中で、傭兵連中がセイネリアに直接話しかけてくる事はなかった。 そもそもこういう場合は傭兵側も騎士団側も互いにリーダー同士でしか話さないものであるからそれが普通だが、セイネリアとしては彼らの視線自体はよく感じていた。 あとはバルドーが言うところによると、今回の傭兵連中はやけに大人しくて従順で楽だ、という事らしい。お前のせいかもな、とも言っていたから他にもこちらに関して何かを聞かれたのかもしれない。 セイネリアはその目の良さを見込まれてバルドーと馬を並べて先頭を務めていたため、彼とは道中でいろいろ話をする事になった。その流れで休憩時にも彼と共にいる事が多かったせいで、彼のグループである連中とも多少話したりもした。役立たずグループの連中は相変わらずセイネリアに関わろうとはせず、いかにもヤル気のなさそうな様子ではあったが、一応逃げずについてきてはいたしバルドーの指示には従っていた。 まぁ、逃げれば騎士の称号をはく奪されるのだから仕方なくではあるのだろうが。 そうして予定通り、一応特に問題はなく首都を出て3日目にはコザの街に着いた。実を言えば急げば2日で着く事も可能だったのだが、運動不足の隊長様が持たない事を考慮して最初から3日で予定を立てていた。おかげでだらだらやっている遠征訓練より休憩の多いのんびりペースで行く事になったが、それはそれで誰も脱落者もなく傭兵部隊からの不満も出なかったので悪い事だけでもなかった。 余裕のありすぎる計画であるから、コザの街についてからもまずは一泊し、朝一でクーア神殿から転送でパスカッドの街へ向う予定になっていた。さすがにこの人数になれば宿を取ってはいられないが街外で野営しなければならない程でもなく、今回はリパ神殿で泊めて貰えるよう手配してあった。 ごろ寝には違いないが、屋根のある建物の中で寝られるだけで有難いし、食事は神殿側で用意してくれた。おかげでここ数日の野宿より各自ゆっくり眠る事が出来た。 ただ出発の時には、久しぶりに一人だけ客室のベッドで眠れたらしい隊長が未練がましくもう一泊休んでいけないかと文官にごねたりはしていたが、勿論クーア神殿に転送の予約を入れている時点でそれが出来る筈はなかった。 --------------------------------------------- |