黒 の 主 〜冒険者の章・八〜





  【98】



 処刑広場から宿に戻ると、蛮族達は声を揃えてこういった。

「復讐だ」

 蛮族達の行動理念は単純だ。敵は倒す。仲間を殺されたら復讐する。
 そして基本違う部族同士は仲が悪くても、共通の敵のためになら協力することもある。
 彼らにとって共通の敵は勿論クリュースだ。それが今回の場合、クリュースの中でも特定の領地、人物に標的が固定されただけの話である。

「俺たちは騙された。奴らは俺たちをさんざん利用して、裏切って殺したんだ。奴らに制裁を! このままで済ますものか!」

 仲間を殺されたアザ・ナがそう言えば、エーリジャやガーネッド、ネイサーに連れられた他の部族の蛮族達もそれに同調する。我らを甘くたな、見合った目に合わせてやらなければならない――相手がクリュースの者であれば、それで蛮族達は意見を合わせる事が出来るのだ。
 ただこの中で一人、無条件にそれを唱えられない者にセイネリアは聞いてみた。

「あんた達にとっては、殺された爪の民の者達は違反者なんだろ……どうする気だ?」

 それを黒の民の男を通して牙の民の者――ヨヨ・ミに尋ねれば、もともと仕事を受けている連中を脅すためにクリュースにきた彼は難しい顔をしたまま答えた。それを即座に黒の部族の者が教えてくれる。

「殺された……爪の民の者達、愚か者達だ。部族内で制裁を受けるべき違反者、だった。それでも、同族だ。騙されて殺されたなら、カタキ、とらないとならない。セセローダ族を馬鹿にしたこと、後悔させる」

 やはりそうきたか――蛮族達各部族内の仲間意識は強い。例え部族内の犯罪者であっても同族ならば見捨てないとそう言うだろうとは思っていた。だからこれで話が進められる、セイネリアは騒ぐ蛮族達に向けて言う。

「爪の民の連中を殺させたのはこの地を治めるスローデンという男だ。騙して利用していたのもこの男である可能性が高い。そして現在俺たちの敵もこの男だ」

 もし仲間の蛮族達が怒り狂って報復したとしても高々一部族が攻撃してくる程度、騎士団が国境村内で撃退するだけだとスローデンは考えていただろう。そして彼らの主張など誰も取り合う筈がないとそう計算していた筈だ。

「だからお前たちの復讐に俺も協力してやる。言っておくが協力するのはお前たちが勝てばこちらにも都合がいいからであって、今回限りの話だ。ただし協力するならこちらの指示にある程度従って貰う必要がある」

 協力はまだしも、従えという言葉を聞けば蛮族達の表情が顰められる。だからセイネリアは獣の目と言われた琥珀の瞳に威圧を込めて彼らの顔を見据えて言った。

「いいか、今までの戦いからも分かっていると思うがお前たちだけで復讐を成功させることは難しい。数部族が集まった程度ではまた撃退されてお前たちに死者が出るだけだ。だが俺のいう通りにすればお前たちに勝利をくれてやる」

 言葉が分からなくても蛮族達は空気に圧されて口を閉ざす。その中で気付いた黒の部族の男が何かを皆に言い出した。恐らくはセイネリアの言葉を通訳して伝えたのと……セイネリアの強さについても何かを言っているのかもしれない。
 蛮族達が顔を見合わせて何かを言い合う。
 セイネリアの方を見ながら、だがその目には確実に畏怖があった。怒鳴りちらすような声はなく囁きのような話し合いが彼らの中で行われ、そうしてやがて結論が出たのか次第に声はなくなっていく。

 ふと気づけば、エーリジャがらしくなくこちらを睨むくらいの目で見ていた。
 だからセイネリアが彼を見れば、彼はその目のままで口を開いた。

「良かったね、どうやら彼らは君に従う事で同意してくれそうだよ」

 表情は変わらぬまま、こちらを非難する目で彼は言う。おそらく彼の言いたいことは一言――これは全て君の思う通りの展開なのか――あたりだろう。エーリジャはラギ族の村でも蛮族達に友人として接していた。なら彼らを利用するこのやり方に引っかかりを覚えるのも無理はない。だが反対もしない、そこまで彼は馬鹿でもない筈だった。

「信用出来ないと言うなら、俺がスローデンの敵である事を証明してやろう。二日後、お前たちの仲間を殺したスローデンの兵を殺しに行く、お前たちも付き合え」

 答えに迷っていた蛮族達の表情が変わる。復讐の血を求めて彼らが歓声を上げる。我を争ってセイネリアについて行くことを宣言する。

 そうしてやはり、エーリジャは苦し気にこちらを睨んでいた。




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