黒 の 主 〜冒険者の章・八〜





  【22】



 女がリーダーをやっている場合、ただのお飾りか普通より有能かのどちらかだと思っていい。今回は幸い後者だったらしく、無駄な抵抗をせずにあっさり盗賊たちは白旗を上げてくれた。
 例の冒険者二人組は連中とは無関係そうだったため、冒険者登録名だけ聞いて領境近くまでエデンスが送ってやった。
 あとは捕まえた連中を縛り上げ、ついでに怪我をした者はエルが応急措置をしてやって、セイネリア達はシャサバル砦へと帰った。
 勿論、捕まえたからといって油断する事なく、レッキオが砦に連絡してくれていたから、途中からは砦から迎えの護衛付きで帰った。なにせもし周囲に他の雇われ盗賊達がいるなら協力してこちらを襲ってくる可能性がある、砦で大規模な討伐作戦をやった時もそれで結局捕まえた者を逃したようだから今回は慎重に、周囲を警戒して砦への道を急いだ。
 警戒役のエーリジャの話だと、2組程盗賊達がこちらを見つけたようだが手を出してはこなかったという事で、この連中が捕まった事自体は雇われ盗賊全員に伝わるのは確定と思われた。

「あんた達は運が良かったのさ」

 砦に戻って、リーダー格の女を囲んで尋問が始まると、まず女はそう言った。

「普段だったらもっといっぱい森に潜んでる奴らがいたのに」
「……それは、俺達がお前達をさんざん引っ掛けたから警戒して暫く派手に動くな、という命令が上からきてたからだろ?」

 セイネリアが聞き返すと女は口を閉じる。余計な事をいうまいとそこで下を向いた女にセイネリアは笑みを浮かべて言ってやる。

「お前達は運がいい」

 何を言われたのか訳が分からないという顔で女は顔を上げた。

「最初に捕まった事で選択の余地が与えられた。だが他の連中はもう、死ぬか、盗賊行為を行っていたとして冒険者資格はく奪、もしくは苦労してあげたポイントをごっそり持って行かれて明日の仕事に困る身になるしかない」

 その言葉に女はやはり訳がわらかず困惑していたが、暫く考えた末に訝し気に聞き返してくる。

「……つまり、選択の余地ってのは、あんた達に協力すれば私達をお咎めなしにしてくれるって事かしら?」
「そういう事だ、馬鹿じゃない女は嫌いじゃない」

 言われた女は少し顔を顰めて、それでもすぐにこちらを睨んで言ってくる。流石に女でパーティリーダーをやっていただけはある気の強さだ。

「褒めてくれてありがと。だからといってそっちにつくかは決まってないけど」
「早く決めた方が怖い思いをしなくて済むと思うぞ」
「あら脅し? おっかなぁ〜い」
「このまま牢獄に入りたくはないだろ?」

 女の態度には余裕がある。それはそれなりの理由があるからだ。

「さぁどうしようかしら……そっちに付くにしてもそっちはそっちで足元に火がついてそうじゃない? のんびり盗賊退治なんてやってたら帰る場所がなくなっちゃう可能性もあるわよ」

 そこで後ろにいた二人――ダレンドとレッキオが乗り出してきたから、セイネリアはそれを手で制して女に笑いかけた。

「わざわざこちらの心配をしてくれて有難いが、俺がここにいる段階でその心配は無用だ」

 そこで女は大きく目を開く。
 そのまま暫く黙ってから、ぷっと吹き出して笑い出した。

「すっごい自信家ね。……まぁいいわ、少し考えさせてくれるかしら?」
「あぁ、構わない」

 セイネリアは笑って女に言ってやる。
 そこで尋問は終わりとして女を拘留場所に戻せば、途端、言いたい事をいろいろ我慢していたらしい二人から畳みかけるように抗議された。

「何故わざわざ飴を与えて懐柔しようとするのです?」
「さっさとキエナシェールへ送って、神殿で告白の術を使って洗いざらい喋らせればいいだけではないですか?」

 まぁ彼らの言う事も彼らの立場からすればもっともだ。

「裏にはもっとずっと厄介な問題があるからな、盗賊共の件は出来る限り早くカタを付けたい。その為には奴らを利用したほうが手っ取り早い」

 盗賊騒ぎなど、向うからすれば大きな計画の中の手の一つに過ぎない。あの女の言った言葉ではなないが、こんな事にのんびり時間を掛ける気はセイネリアにはなかった。
 ただ、そう答えれば、当然ながら向うから湧く疑問はある。

「利用するといってもあの様子だと簡単に承諾しますか? それにもし奴らがこちらに協力するといったとして、私は信用出来ません」

 セイネリアは琥珀の瞳を細めて彼らを見据える。それだけで二人は口を閉じた。

「何、明日には協力すると言うさ。それに信用など出来なくても裏切れなくすればいい」

 ダレンドとレッキオが同時に喉を鳴らした。

「どういう意味です?」

 セイネリアは唇の端をくっと上げて笑って答えた。

「だから、これからその為の打ち合わせだ」

 そう、あの女がこの状況でも虚勢を張っていられるのには理由がある。この状況でそれは一つしかない。今夜にでも、奴らの仲間が助けにくるという事だ。



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