黒 の 主 〜冒険者の章・八〜





  【19】



 セイネリア達が先行している中、遅れて出発したエル達はやはりセイネリアが予想した通り盗賊に襲われる事はなかった。また、かなり気を付けていたが周囲から見られているような気配も感じなかった。
 とはいえ敵を見つけるのが得意な連中は揃って前だから、こっちでは定期的に彼女に聞く事にしていた。

「レンファン、やっぱり敵さんは出て来なそうかね?」

 セイネリアがいないという事で、現在先頭を歩いているのはエルだった。今回は砦側からは兵2人とレッキオが付いてきている。さすがに9人となればただでさえ手を出しにくい上に、昨日の今日では盗賊もまだ警戒していると見てよさそうだ。

「あぁ、敵に襲われるところは見えない……あ」
「どうした?」

 エルが不審に思って足を止める。が、振り返ろうとしたら前方にいきなり人影が現れた。思わず身構えたが、すぐそれは知らない顔ではないのは分かる。けれど、それで安堵出来ない理由があった。

「あんたか……って、エーリジャも一緒じゃないのか?」

 そこにいたのはクーア神官のエデンスだけで、予定ならエーリジャと一緒にいる筈だからどう考えてもおかしい。

「あの狩人はやっぱり黒いのについてくそうだ」

 それを聞いて……内心、エルはほっとした。

「あー……そっか」

 ただそれは、エーリジャがいない理由が分かったから、ではない。
 セイネリアの負うリスクが、エーリジャが行く事でかなり軽減されるだろう事に関しての安心感だ。

 無茶するのが普通のあの男は、確かに無茶を通せるだけの実力はあるが一歩間違ったら死んでいたなんて事も日常茶飯事だ。森を歩く事に関してはセイネリア以上で彼が暴れても邪魔せず後方からのフォローが出来るエーリジャなら、あの性格を考えても今、セイネリアについて行く人間としては最適解だ。
 エーリジャの安全を考えたら当初の予定通りになるのだろうが、エルとしてはセイネリアが潰れたら全ての計画が潰れるため、あの男なら大丈夫だと思っていてももう少しその身の安全も考えて貰いたかったという思いがあった。

「よし、そンならこっちも急いで追いつくぞ」

 ただどちらにしろ、こちらの行動は変わらない。
 エルはすぐに引かれ石を取り出すとセイネリアのいる方向を確認した。この石も有効範囲はそこまで広くないが、結界などの設置魔法がほぼない街の外だと比較的遠くまで感知できる。一応石がまだ有効かどうかは時々確認していたが――取り出した引かれ石が僅かに光ってセイネリアのいる方向を指しているのを見て、エルはほっと息をついた。

「向うだな、森に入った方がいいか」

 指している方向だけを見れば、街道から少し外れた森の中を指している。

「いや、いけるところまでは道を行った方がいいと思う」

 すぐさまそう返してきたのはレンファンだ。他の人間ならともかく、彼女が言ったのなら聞く事がある。

「何か見えたのか?」
「あぁ……今、エデンスが来た途端……我々が道で敵らしき者達と向かい合っているのが見えた」

 それならエルも即決する。

「オーケー、ならよっぽど方向的に逸れない限りは出来るだけ道を行こう。どっちみち、その方が歩きやすい分早いだろうしな」

 だがそこで、前にいたエデンスが道の端へいって座り込んだ。

「悪いが俺は少し休憩してからでいいか。あんた達が道を行ってるなら探すのも楽だしな、後で合流する」

 転送も結構疲れるんだったか? ――考えながら、エルは一応聞き返した。

「そら構わねぇけど、一人じゃ危険じゃねぇか?」
「あぁ、襲われたら飛ぶさ」
「あー……だったな」

 エルはそこでもう一度石の方向を確認してから、道から逸れすぎていないのを見て皆に出発を告げた。ともかく今は、一刻も早くセイネリアに追いつく事が優先だった。



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