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「ヒイロ、お前…ああそういや、会議は終わったんだっけ?」 その声に、デュオではなくα2の方を見ていたヒイロの視線が戻って来る。 まぁ、確かに最初はこいつに驚くよな、と納得はするがこっちを見てくれないのはちょっと寂しい気もする。 しかも少しだけ、本当は期待をしていたのだし。 壊れた部屋、この惨状を見て、もしかしたらヒイロは自分の事を心配してくれるのではないかと。 けれど、こちらへ近づいて来る、その表情はどうみても怒っていて。 これ以上ないくらいに不機嫌だと、顔を見ただけで分かる。 「あーその、さ。お前…怒ってる?連絡するっていってたのに、途中から全然しなくなったし…そりゃ、ごたごたしてて忘れたのもあったけど、移動してばっかだから連絡してる暇もなかったんだって、それに…。」 とにかくここまで怒っているヒイロも見たことがないから、先手をとって思い当たる事を片っ端から謝ってしまおう。 デュオは、ゆっくりと近づいて来る剣呑な瞳のヒイロをみて、早口で喋りまくった。 だけど、目の前まで来て、怒鳴られると肩をすくめたデュオに対し、ヒイロは彼を見てなどいなくて。 真っ直ぐに、デュオを抱きかかえるα2を、その冷たい瞳で見上げていう。 「お前は何者だ。デュオを離せ。」 だからデュオは、覚悟してつぶっていた目を恐る恐る開けて、困惑してヒイロを見つめるしかなかった。 「ヒイロ?」 暫くどういう事か分からずにぽかんとして、そうしてハタと気が付いて、思い出したように顔を赤くして騒ぎたてる。 「あっα2。下ろせ、目的地ついたからもーいーだろっ。」 α2の腕の中でバタバタもがくと、漸くα2もデュオを見て、ゆっくりとその体を下ろし始めた。 そうしてやっと自分の足で床を踏みしめると、デュオはヒイロに向き直る。 いや。 向き直ろうと背を伸ばした途端、腕を捕まれ、本物のヒイロの無遠慮な力で引き寄せられた。 「ちょ…ヒイロっ。」 あわてて名前を叫んでも、ヒイロは痛いくらいに掴んだ腕を離さない。 それどころか、余りにも急に引っ張られたせいで、ヒイロの体に倒れかかるような格好になってしまい、しかもそのままヒイロはデュオの体を片手で抱き留めるようにしているのだ。 そして、更に。 もう片方の手で握った銃をα2に向けている。 「ヒイロっ、やめろっ。こいつの事は話したろう?こいつは敵じゃないんだって、俺の事守る為に来てるんだって。だからお前っ、自分と同じ顔のヤツに銃なんか向けてんじゃねーよっ」 「守る…か。」 口の中だけでヒイロは呟く。もちろん声はデュオに聞こえない。 α2には聞こえていたが、彼は黙って向けられた銃口を見ているだけだった。 「詳しい事を話せ。」 銃を下ろして、ヒイロはデュオを連れたままα2にこちらへ来るように促し、別の部屋へと歩きだす。 α2は、やはり何もいわずそのヒイロについて歩く。 ただデュオは、 「ちょっと…ヒイロ?」 呼ばれて怒りの残る瞳をデュオへと向ける、ヒイロ。 「これ…離してくれない?」 あまりにも真近でみる端正な顔に、赤くなりながらもデュオはいう。 ヒイロの腕は未だにデュオを引き寄せたままで、一見すると抱き留めている様にも見える格好となっていた。 ヒイロはすぐにまた瞳に不機嫌を2、3割増やして、暫く無言でデュオを睨みつけてから、投げ付けるように腕を離した。 「おーいってぇ」 掴まれた場所は赤くなって、ヒリヒリと痛い。 やはり本物のヒイロも人間にもかかわらずバカ力だと、デュオは再確認して、ヒイロの後に続く。 …赤くなった腕をさする、デュオを見ていたヒイロの瞳に気付かないで。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 壊れた部屋の隣、デュオが逃げ込んで捕まったリビングに、3人は集まって話をしていた。 デュオは、それとなく、かなり怒っているヒイロから離れた場所に座ろうと思ったのだが、ヒイロにまた睨まれたので、しょうがなくヒイロの傍に腰を下ろした。 まぁ、ヒイロとしては、まだα2に対する警戒を解いてないのだから、彼に近づいて座ろうとしたのがマズかったんだろう。 デュオはそう考える。 ヒイロの機嫌は依然として最悪で、特にα2を見る目には人事ながら恐ろしいモノを感じる。なにかあったら自分が仲介するんだろうかと思うと、ちょっと、気が重い。 「まずは、俺の事からいうべきか?」 α2の問いにヒイロは軽く肯く。 α2の話はデュオがすでに聞いていた彼の正体から、どうしてデュオが狙われているか、そしてここへ来てからの経緯。 とりあえず、顰められた顔は変わらないものの、ヒイロは黙ってα2の説明を聞いていた。だが、彼の話、デュオが知っている一通りの内容が終わってすぐに、ヒイロは疑問に口を開いた。 「大体は分かった…だがそれが本当だとして。いつまでそいつらからデュオを守らなくてはならないんだ?」 ああ、確かに。デュオは思う。逃げたり驚いたりに忙しくて、そんな事に気が回らなかったが、そういえば、彼はただ自分を守るといっていただけで、どうすれば、彼の仕事が終了するのかを聞いていなかった。 やっぱ俺って間抜けかも。 怒ってるくせにちゃんと状況判断ができるヒイロに感心してしまう。 流石ヒイロ、と。 「さっきもいった通り、タイムマシンで移動できる時間の流れには波がある。」 だから、α2はいう、期限はその波が変化するまでだと。 計算では、こちらの時間で後4日間、波は浅い位置を保っている筈。 「そっかぁ、なんだ後4日逃げればいいだけなんだ。」 嬉しそうにいうデュオを、同じ顔をした後の二人がそれぞれの感情を瞳だけに乗せて見かえした。 デュオは、睨んでいるヒイロの瞳を見て首を竦めた。 α2はそれを見ながら悲し気に、瞼を伏せて話を続ける。 「4日すれば、彼らも俺も元の時間に戻らなくてはならない。波が閉じれば帰れなくなるからだ。その間、デュオを守り切れれば、とりあえず暫くは奴等が過去に干渉する事はできなくなる。」 「成る程な。」 ヒイロの声は何処か安堵した響きがある。 顔を覗き込むと、先程よりも少しだけ機嫌がなおっている…ような気がする。 それでデュオもほっとして、緊張していた肩の力を抜いた。 「もう一つ…質問がある。」 少しだけ考えて、ヒイロはいった。 「デュオを守る為に来たのが何故、お前なんだ?」 一瞬、ヒイロも、α2も、どちらも表情一つ変わらないのに…何か緊張した沈黙が訪れる。 デュオにはそれが、何故なのか理解できなかった。 ややあって。 「俺が、ヒイロ=ユイのロボットだから。」 α2は答える、その顔は悲し気で。 だからデュオは、その意味を取り違えた。 ロボットだから、身体的に一番適している、捨て駒にもなれると。 彼は、自分が機械だからという時は決まって悲しそうな顔をするから、と。 そのデュオの考えがすべて間違ってはいなかったけれど。 デュオは「ヒイロ=ユイの」といった意味を正しく理解できていなかった。 そして、ヒイロは。 ヒイロは、全てを理解して。そして、多分────、間違っていないだろうある仮説に、自嘲するよう唇を歪めた。 ─────キィン。 高い、音。聞き覚えがある…。そこまで考えてすぐに体が動いた。 デュオが飛び跳ねて避けた場所は、床さえも真っ二つに割れて、その武器の威力をいやがおうにも見せ付けていた。 「デュオっ」 ヒイロとα2、二人が同時に叫んでデュオの体に手を伸ばす。 だけれど、速度だけならばやはり機械の彼の方が速く、α2はすぐにデュオを引き寄せて抱き上げた。 「─────。」 ヒイロの顔が苦し気に歪む。 その表情に、α2だけは気が付いた。そして正確にその顔が意味する彼の感情も読み取る。 「おいっ、α2。」 デュオは、α2の腕の中でじたばたともがいて抗議した。 「とにかくお前の無事が最優先事項だ、やつらを振り切って逃げるのが一番速い。」 α2は落ち着いていう。それはデュオと、ヒイロの両方へ聞かせるための言葉であった。 だが、デュオはα2の服の襟を掴むと、真剣な面持ちでその顔を見つめた。 「でもっ、ヒイロが。あいつを残していくのか?」 いくらヒイロでも、ロボットであるα2についてくるのは不可能だ。かといって、彼をこんな敵のド真ん中に残していったなら、いくらヒイロが優秀であるといっても───敵は自分達の未知の武器だって持っているのだ───無事を保証出来ないだろう。 「あいつなら、大丈夫だ。」 α2はいう。だが、彼がそういえたのはヒイロ=ユイが殺されない理由を知っているから。けれどその理由はデュオにはまだいう事が出来ない。 だからデュオは、その言葉を信じられなかった。 すでに飛び出そうとしていたα2の顔を、無理に自分に向けさせる。 「下ろせっα2っ、ヒイロをっ、置いて俺だけ逃げられるかよっ。」 その瞬間、α2は、本当に悲し気な顔をして。 デュオが何もいえなくなって止まるくらいに。 それから、少しだけ瞼を伏せて、デュオをその腕から床へと戻した。 「デュオっ」 すぐにヒイロがデュオを引き寄せる。 呆然とデュオはα2の悲し気な瞳を見つめたままだった。 α2は顔を上げると、ヒイロにいう。 「デュオを、お前が守っていろ。」 そしてすぐに、敵へ向かい走っていった。 BACK |