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さて、熱海だ。 何をいきなり?と思うかもしれないが、ここは熱海、デュオとヒイロは今、いわゆる観光で地球の日本、それも熱海にやってきていた。 一応の名目は結婚一周年記念旅行。とはいえ、それはたまたまついた名目であって(なにせ、一周年というには結構過ぎてしまっているし)、本当は最初から意図してそのつもりでいたのではない。ただ単にヒイロがデュオと二人っきりでゆっくりしたかったというのが本当のところなのだが、まぁデュオは旅行事態が好きであったから喜んでいるし問題はないだろう。 ということで熱海だ。 古くからの観光名所───駅前にはお土産屋さんが立ち並ぶ湯の街…だが、実際のところ若い二人が来るにはちょっと??な感じがしないでもない、どちらかというとおじさん達の観光名所、熱海。ちなみに、ココへ来た理由としては、会社の保養所が当たっただけという、実に単純な理由であった。 ここで、前回の本をお持ちでない方へちょっとだけ説明をしなければなるまい。 怒濤の結婚式を終えた二人、家庭を持ち(といってもデュオヒイロの二人だけだが)これからの生活設計に燃えるヒイロは、まず家を養う為に就職をした。 得意分野でコンピュータ関連、そしてデュオの「おもしろそうじゃん」の一言で決まった仕事はゲーム会社のプログラマー。能力的には問題なく、給料は高い…だがそれには深い落とし穴が待っていたのだ。 ──────とにかく忙しい。 忙しすぎて家に帰る事もできない。おかげで新婚ほやほやの妻を放っておいて、連日会社へ泊まる日々。家に帰れても疲れきって、甘〜い新婚の夢は脆くも崩れ去るしかなかった。 ──────とまぁ、そんな状態であったのだが、この度仕事もやっとこさマスターアップを終えて一段落。後はゲーム発売直後のユーザーサポートがあるだけだから、それまではとやっとの事で久方振りの休暇をまとめて貰えたのだ。 この業界、忙しくない時ならば割とまとまった休日を貰うのは容易である。大抵の者は自分の携わるプロジェクトが終わった直後に1週間かそれ以上くらいは休みをとって、文字どおり骨休めとなるわけだが、ヒイロは違う。さすがの彼も最初の一日は休んでいたものの(なにせマスターアップ直前は連日徹夜だったため)次の日にはすっかり復活して、仕事中ずっとお預けだったデュオのとの甘〜い新婚気分を徹底的に満喫する事を決心したのだ。 誰の邪魔もなく、二人っきり。家だといつ会社から電話がかかってくるかもしれないし、デュオがじっと一緒にいてくれる可能性も少ない。…というわけで旅行、手っ取り早くリーズナブルにという事で会社に保養所申請して今回の熱海行きとなったわけである。 「…ってせっかく来たのはいいんだけどさぁ…この周辺ってあんまし遊ぶとこってないんだな。」 旅館備え付けの観光案内パンフレットを見て、デュオがそういう。 来たその日で、一応一通りのお約束観光名所は回った為、さて、明日は何処へ行こう…とデュオとしてはいろいろ期待していたのだが、どうやらこの宿に帰って来る事を前提にしてバスだけで回るには、いけるところは限られてしまうらしかった。 だが。 「あ…これなんだろ?」 そんな中でも、デュオはふとパンフレットの横に置かれた観光地の割引チケットの一つに目を止めて手に取る。見れば、ちょっと色っぽい女性型の人形の写真が印刷された「秘宝館」というなんかの博物館?なのだろうか…の割引チケットらしかった。 「秘宝館?」 って何置いてあるとこ? すかさずデュオはヒイロに聞くが、ヒイロの答えも知らないとの事。 こうなれば、返って好奇心というのは沸くモノで、「んじゃこれ、明日いってみるか」としっかり予定に組み込んでしまった。 フ…。 僅かに、ほんとーに僅かにヒイロが口許を歪めたとも知らず…。 よーく考えてみれば分かる事だが、あのヒイロが自分が行く場所の周辺を調べずにいるワケはない筈なのに…まぁ、それは後で気付く事になるのだが。 とりあえず明日の予定をしっかりたてて安心したデュオは、おやすみなさぁいと布団に潜って今日はもう寝る事にした。ベッドではなく床に直接寝具を敷くというのには驚いたが、これも割といいモンだなと上機嫌で目を瞑る。それを見て、ヒイロも電気を消して、隣の布団に入る気配がしたその後。 「ちょっ…ヒイロ」 「どうした?」 「おまえッ…何処触ってんだよ。」 「何か悪いのか?」 「って…あのさ…」 暗闇の中、ごそごそとこちらの布団に手を伸ばしてきているのは、どう考えてもヒイロの腕だ。明確な意味を持って触れて来る手は、デュオの太股をさすり上げ…旅館で用意された『ゆかた』なるモノを来ている今だから、ちょっと布を避けるだけでその手は簡単に直肌に触れてしまって、デュオとしてはちょっと待てオイって感じなわけだ。 「おまえ…よっぱらいのスケベおやじじゃねーんだからやめろって。」 呆れ半分怒り半分にそういえば、返ってきた返事は一言。 「分かった。」 あれ?随分素直じゃん、と思ったときには布団が擬音がつきそうな程豪快にまくられて、そしてすぐにスースーとした涼しげな感覚が体を覆う。 「わーヒイロッ。まてまてまて〜」 あ、という暇もないままに、現在の体勢は布団を剥がされて上からヒイロが被さってきている状態。…どうやら彼の『分かった』とデュオの理解した『分かった』は意味が違ったらしかった。 「なにしやがんだ、てめぇ!」 まずは怒鳴るデュオの声に、ヒイロはさらりと 「この体勢でやる事は決まっている」 と、分かっていても聞きたくない返事を返した。 「……」 瞬間それに返す言葉がなくて、デュオは口を開けて止まってしまったのだが、ゆかたの胸元をヒイロがさっさと緩め始めるにいたって、急に正気を取り戻す。 「わーちょっとちょっとちょっと。焦るなってぇーオイ、なぁ…」 だが、ヒイロの手が止まる事はない。こちらのいい分を聞こうとしている気配もない。 それでもデュオは、口許をひきつらせながらヒイロの襟をがしっと掴み、無理に顔を向かせてからできる限り媚びる様な声で、《お願い》をしてみた。 「なぁ、俺今日はずっと移動ばっかりで疲れたんだよ。お願いだから、今日はゆっくり休ませてくれ。頼むからさぁ。」 デュオとしては殆どだめで元々…だったのだが、意外にもおとなしく(?)ヒイロはゆっくりとデュオの体から退いて自分の布団へと帰っていった…らしい。 「ごめんな…怒ってるか?」 返事はないが、とりあえず謝っておく。 返されるのは無言ばかりで、ヒイロはそれで、その夜はもう何もしてこなかった。 あぁあやっぱ怒ってる…。 ちょっとだけびくびくしながら、デュオはゆっくりと瞼を閉じた。 こいつ拗ねると大変なんだよなーとか、思いながら。 ニヤリ。 まぁ、いい。 デュオに背を向け、またもや口許に不気味な笑みを浮かべて黙っているヒイロの考えなぞ、デュオが予想できる筈もない。 こうして旅行一日目の夜は、嵐の前の静けさよろしく、平穏無事(?)に過ぎていったのであった。 「はぁ…秘宝ってのは…なんか分かった気がする。」 というわけで、あけて次の日。場所は例の秘宝館である。 張り切ってやってはきたココは、なんだか一気に脱力するようなところであった。 秘宝館…その名から一体何があるんだそこは…って思われるココの展示(?)内容は、早い話がいかにも中年のおじさんたちが喜びそうな、下ネタオンパレードの見世物というか展示品というかが並ぶ(しかもどれも皆チープな感じをうけるとこがたまらない)かなり怪しい場所だったのだ。…これが観光スポットとして普通の旅館に割引チケットが置いてあるあたり、熱海、侮れないモノがある。シチュエーションとしては、多分、おじさんが若い女の子を連れてやってきて、女の子が展示を見て恥ずかしがるのを楽しむのがよいのだろう。 まぁ、デュオだって男の子だし、こーゆーのを見てつまらないとはいわない。昔話のオチを下ネタで落してるようなパネル表示も、おみくじ人形が後ろむくと尻丸出しとかいうレトロな仕掛けも、ばかばかし過ぎて十分楽しめたりはするのだ。 ただ…。 じ──────っとヒイロが…あの顔は奇麗なんだけど目つきは睨みつけてるような表情の一つも変わらない顔で、展示してある、いわゆる48手の絵付き紹介のパネルを一つ一つじ──────っと眺めている、もとい検分している姿にはどうにかしてくれと逃げたくなった。 おまけに。 「なぁ…ヒイロ、そろそろ次にいこうぜ。」 そっとそれとなく服の裾をひっぱってみたデュオに向かって、急に振り向いたヒイロは一言、 「デュオ…どれがいい?」 と、とんでもない事を聞いてきたのだ。 …こいつ…まさかわざわざ旅行に来てソレしか考えてねーんじゃ…。 思わず目眩がするデュオの横で、やはり無表情でヒイロは表示パネルをじっくりと見ている。 「お・ま・え・なぁ…」 服の裾を持つ手も思わず震える。 だがもちろん、ヒイロはそんな些細な抗議など気にしてもいない。 さすがのデュオも、頭のどこかがプチリという音をたてた。 「…おまえは、こーんなのや、そーんなのを俺にやらせようっていうのかッ」 とうとう半ばキレたデュオは、特にヒイロがじっくりと見ていたいくつかのパネルを差してそう怒鳴ってしまった。 「…この絵の手法ではデフォルメが激しいから無理なように見えるだけだ。実際はすべて昔から試されてきたモノばかりだから問題はない。」 ヒイロの声は飽くまで平然としている。 たしかに絵は浮世絵風で、そこに描いてある男性器なんぞ、いくらオーバーにっつっても限度があるだろ、というほどの大きさだったりするのだから、かなりデフォルメがきいているのは誰だって分かる。…とはいっても…。 「ってそれでもそれは男と女の場合だろッ。男同志の場合は考慮されてねーに決まってんだろーがッ」 はぁはぁぜぃぜぃと肩で息を切らすデュオは、それでも無表情のヒイロにまたキレそうになってとにかく落ち着こうと一つ息を吐き出した。 そして、気付く。 ───他の客が、自分達二人を見て、皆こそこそと何事かを話している事を。 考えてみれば。 今のデュオの発言は、「俺達二人は、ホ○なんですぅ〜」を思いっきり公言しているモノに他ならない。 途端、デュオの顔は一気に血液が逆流したように耳たぶまで真っ赤になった。 「いくぞっ。」 とにかく、逃げるようにヒイロをひっぱって、ひたすら出口を目指して走る走る。 顔から火が出る、という程真っ赤になっているデュオにとって、もう他の展示を見ようとかいうのはどうでも良くなった。 だが、こーゆー時に何故か怒る運命のいたずら。 どしんっ。 「────ッ。すいませんッ。」 急いだデュオがひっぱてきているヒイロの方をちらりと見たその途端、前にいた人物にぶつかってしまったのだ。 「…まったく最近の若いもんは…」 そして、その何処か聞き覚えがある声にギクリとしながら視線を向ければ。 「おぉ、おまえさんは…」 「おぉ、デュオじゃないか。」 「そっちはヒイロか、そういや結婚したんだっけなぁ、お前達は…」 なんでてめぇらがここにいる? 驚き過ぎて引きつるデュオの目の前には、死んだ筈のガンダム製作者のジジィ一行が元気そうな姿で立っていた。 ………。 「俺は見なかった…見なかったからな〜〜」 はっと我に帰ったデュオは、顔を蒼白にして出口へ猛ダッシュをかけた。 「おーいデュオ〜ワシらのいるホテルは×××屋じゃ。なんなら遊びに来てもいいぞ〜」 背後に掛けられた声も聞こえなかったフリをして、幻聴だと自分にいい聞かせる。 とにかく、デュオはここでの事は全て忘れてしまう事にした。 ヒイロとの会話も、あの疫病神どもも。 忘れる忘れる忘れる。 熱海旅行二日目は、これ以上彼らと会わない為に、ロクに観光もしないままに終えたのであった。 *********************** 三日目。 ヒイロ・ユイは不満であった。 仕事も終わり、折角の夫婦水入らずの旅行というのに、旅行も三日目に入った今、未だに一度も夜の夫婦生活(汗)をさせてもらっていない。 一日目は、まぁ、いい。 疲れてるというデュオの意見を尊重させてやって、ゆっくり寝かせてやるのもいいだろう。どうせ次の日も次の日も…旅行の間は夜はたっぷり二人だけの時間を満喫できるのだから。 だが、昨夜は。 「他のとこで、もしまた奴等に会ったら…」 とあの後の予定を全て取りやめて早々に宿へ帰ってきたのは良かったのだが、デュオの機嫌は頗る悪かった。 本来ならば、デュオの機嫌なんかを気にするようなヒイロではない。 だが、余程あの科学者ズに会ったのが嫌だったのか、デュオはあれからずっと『帰る』を連発し、子供のようにだだをこねた。だから仕方なく、デュオの機嫌を尊重して昨日もキス止まりだったのである。 そして、朝、やはりデュオは『帰る』を連発していた。 「なぁ、ヒイロぉ…もういいよ、帰ろうぜ。」 だが昨夜と違い、三日目の今日ならばまだヒイロの方にも手があった。 「そんなに奴等が嫌なら、ここからずっと離れたところへ行けばいいだけだ。」 会社の保養所であるこの宿は、二泊までしか使えない。どちらにしろ、今晩からは別の宿をとらねばならず、熱海からは移動してもいいと思っていたのだ。一応当初の予定では、それでもここからそんなに遠くまで行くつもりはなかったものの、デュオの機嫌が良くなるならば別にちょっとまた遠くまで移動しても構わない。どうせ今の季節の平日では宿も空いているだろうし、大した問題でもない。 「──────…そっかぁ…そだな。」 途端、にっと機嫌良く笑顔を浮かべるデュオ。 …かわいい。 思わずヒイロも唇をフっと緩める。…まぁ常人ならばその表情の変化は分からなかっただろうが。 そういうワケで、すっかり機嫌の直ったデュオを連れ、旅館のチェックアウトをすませると、二人はすぐに駅へ向かったのだった。 次は何処へ行こうか?…目を輝かせて観光案内の本を眺めるデュオは、だが駅に来たもののすぐに切符を買うでなく、まずはお土産と、駅についたデパート…駅ビルという奴だ…のお土産コーナーへと足を伸ばした。 さて、旅行といえば海外どころか宇宙までいけるこの現在、旅行する側にとってはあんまり細分割された局所的な『名物』というモノにはこだわる事もなく、特にこういう大型総合ショップでは、何処へいっても何処の土産も買えるという状況は珍しくない。ということで二人がやってきたこの土産コーナーも、『熱海』ならではのモノというよりも、その周辺観光地の土産物ならなんでも揃うという場所であった。 「えーっと、土産買う奴はとりあえずカトルとトロワと五飛と…あぁ、お前の会社用のとか近所のおばさん連中にも買わなきゃならねーよなぁ…」 色鮮やかに並べられたお土産の数々を楽しげに見てまわるデュオ。買い物をする時の彼は、いつもやたらと機嫌がいい。並べられた土産などにはわき目もふらず、ただデュオだけしかみてないヒイロは、はたから見てれば無気味な無表情ながらも、楽しげなデュオを見て彼もまた心中楽しんでいた。 「なぁ、ヒイロ…」 突然、デュオがヒイロを振り返る。 「わさびって…何?」 それで初めてデュオの見ている周辺を見れば、どうやら《わさび》が特産品の地域のコーナーを見ているらしい。 「…辛味として使うモノだと思えばいい」 あんまり詳しく説明しても無駄だろうと思ったヒイロはそれだけをいう。 「…なんか形がグロテスクなんだけど…」 「すりおろして使う。形は関係ない。」 「でもこれって…」 何か顔をひきつらせているデュオの指差すモノを見れば、それには《わさび最中》と書いてある。 「なぁ、確か最中って前にお前が会社でもらってきた『あんこ』とかいう甘いやつが入ってるお菓子だったよな?」 その通り。 しかも、最中の形といえばわさびそのモノの形を摸しているモノなので、形からしても奇妙な事この上ない。 「どーゆーシロモノ?」 そう聞かれても、こんなモノをヒイロは知らない。 「食べてみますか?」 二人の会話を聞いていた売り場のおねーちゃんが、突然会話に割り込んで来る。…実はこのおねーちゃん、シーズンオフで割りと暇なこの時にやってきた目立つ美形の二人組みを、さっきからずっと声をかけるチャンスを狙って見ていたのであった。 「あ、いいんですか?」 女の子には全体的に愛想のよいデュオは、にっこりと笑顔でおねーちゃんに聞き返す。 「どうぞ───♪。こちらを食べてみてください。」 個別売りになっているところから一個を取ると、袋を開けてデュオへと渡す。デュオに笑い掛けられたおねーちゃんも、営業スマイル全開でうかれまくっているようだ。 おもしろくない。 ヒイロは《わさび最中》がなんであるかなどそっちのけで、仲良さげにやりとりをするデュオの態度に腹を立てた。 だがすぐに。にこにこと手渡されたわさび最中を食べたデュオの笑顔が引きつり、くるりとヒイロに向き直る。 「ヒイロ、お前も食べてみろよ、な。」 ひきつった笑顔のまま薦めるデュオに、半ば予想しながらも、とりあえずヒイロもそれを受け取り一口口の中へといれる。 「……。」 「どうですかぁ?」 おねーちゃんの笑顔は飽くまでフレンドリーである。 「え…と、変わった味ですねぇ」 ひきつりながらも笑顔を返すデュオに、ヒイロは冷たい視線を投げる。 …なんだ、この味は。 最中…だから甘い。確かに中はあん(緑色)が入っていてそれは甘いのだ。だが、このあんにまぜあわされているわさびの粒、…これがときおりがりりと僅かな歯ごたえを残し、後につんとしたわさび独特の辛みを舌へとほのかに伝えてくる…製品の名目通り、《わさび最中》そのままのシロモノだった。 じっと険悪な視線を投げるヒイロに気付いたのか、デュオがおねーちゃんには見せないように顔をこちらに向ける。 「ヒイロ、頼む、それ食っちまってくれ」 小声でおねーさんに聞こえないようそういうデュオに、益々ヒイロの顔が顰められる。 「俺それもう食えないし、棄てるわけにゃいかないし…なぁ、頼むよ」 ヒイロだって食べたくなどない。…だが、デュオがここまで頼むからには仕方がない。ガっと袋を全部はぐと、残り全てをばくばくと食べる。 「そちらの方はどうですか?」 「マ───」「───ぁまぁだそうです。」 ヒイロのセリフは笑顔でおねーちゃんに返すデュオのセリフに遮られる。 結局、にこにこと笑顔のねーちゃんの薦めを断りきれる筈もなく、デュオは12個入りの詰め合わせを買ってしまった。 「あーあ誰にやろっか…。」 「会社へ持って行く。」 会社の人間にはあまりいい心情を抱いていないヒイロは、あっさりとそう決定する。 それでデュオもほっとしたらしい。 「あ、ソフトクリームが売ってる。」 目に入ったその看板ににぱっと嬉しそうな笑顔を見せる。が。 わさびソフトクリーム 「…やっぱやめとく。」 宇宙へ行く今となっても、お土産屋の発想というのはどうして変わらないのだろう…。 さて、それから気を取り直してお土産めぐりをする事数十分。 《わさび最中》でちょっと懲りたのか、デュオは食べ物関係には手を出さず、置物等を主に見てまわっていた。もちろん、ヒイロはデュオを見ていただけなので、デュオが何を見ていたかなどは覚えていないが。 だが、いつでも愛想の良いデュオが、売り場のおねーちゃんやおばちゃんと、親しげに話すのだけはちょっと納得いかなかった。 そして又、今度も少し売り場のおねーちゃんと話し込んだ後、デュオはヒイロを引っ張ってとある売り場へと歩いていた。 浜名湖名物うなぎパイ これもネーミングから怪しさが伺える。 「食べ物は懲りたんじゃなかったのか?」 「いやぁ、さっき向こうのおねーちゃんにオススメだって聞いたんだよ。これはうまいってさ。」 いってデュオが、見本のプラスティックケースに入っている一かけらを口に入れる。 「───あ、うん。うまいうまい。」 にっこりとデュオがいったので、ヒイロも一応食べてみる。 …まぁ、菓子だから甘いのはしょうがないが、まともな味。 ヒイロの感想もそんなところだ。 デュオの方は結構気にいったのか、早速自分の分とお土産分と…といくつかの箱を店の人に頼みに行ってしまった。 だが、そこでケースを覗いていたヒイロはとある事に気が付いてしまう。 夜のお菓子… 個別包装されたパイのビニールの袋には、『うなぎパイ』と大きく書かれたロゴの上に小さく『夜のお菓子』と書かれているのだ。 これは一体どういう意味か? じっと眺めて見ているヒイロの横で、丁度良く、やはり何処かからきた観光客がヒイロと同じ疑問を持ったのだろう、売り場のおやじに声を掛けた。 「あぁ、これはですね。うなぎっていったら昔から精力促進の食べ物ですからね、このパイはそのうなぎをひいた粉が入っていますので」 成る程。 ヒイロは大いに納得する。 「ヒイロー待たせたな、買ってきたぜ☆」 デュオはこのうなぎパイを余程気にいったらしく、一体いくつ買ったのだろうと手提げ袋をばさばさともって帰ってきた。 「いやぁ、もうめんどくさいからさぁ、後の奴等の土産もみーんなこれにしちまったぜ。俺も気にいったし──。」 上機嫌でそういうデュオに、ヒイロも僅かに口許を緩める。 「そうだな…」 ニヤリ。 「俺も気に入った。」 だが、ヒイロのその笑みの意味をデュオは知らない。 「へぇ、お前が菓子系のモンを気に入るなんて珍しいなー」 だからのんきにそんな事をいう。ヒイロとしては、この時点で既に今夜の事を考えているなぞ、デュオが知ったらまた「帰る」を連発するところだろう。 だが。 それからきっかり16分後、「帰り」たくとも「帰れない」事態に二人は陥る事になってしまうのだった。 その理由は。 「…ヒイロ、俺…さっきパイ買った後…財布…落したみたいなんだけど…」 ちなみに、デュオの財布の中には、帰りのシャトルのチケットも入っていたりする。 とりあえず届けは出したものの、返って来る事を期待するのは楽観的すぎだ。一応、ヒイロも多少ならばお金を持ってはいたから、今夜の宿はどうにかなる。だが、この状態で移動の為にお金を掛けるワケにはいかないし、なによりも、今日は良くても明日の宿代、一番の問題は帰りのシャトル代…一気にお先真っ暗な感じであった。 「仕方がねぇ…こうなったらすっげー嫌だけど、あいつらに金かして貰うしか…」 そうして、「俺は行かねぇ」というデュオを宿へと置いて、仕方なくヒイロはあの博士達が泊まるホテルへとやってきたのだ。 「おぉ、ヒイロか。なんだデュオは一緒じゃないのか?」 酒が入っていい感じになっちゃってるドクターJは、そういってヒイロに近づいてくる。ヒイロとしても、この面々と顔を合せるのは出来れば避けたいところなので、手短に用件だけを伝えて、金を貸して貰いたいといった。 「なんじゃ、あいつは相変わらず、ほんっとーにヘンなとこでポカをやるからのぅ。」 デュオとは付き合いが長いプロフェッサーGは、そういってひゃひゃひゃと笑う。 ヨッパライ老人5人組に囲まれて、ヒイロとしては早くデュオのところへ帰りたい気分だったのだが、用件が用件なので、黙って相手の話も聞かねばなるまいと我慢をする。 そうして暫くの間、聞きたくもない昔話を聞かされ、肩もみまでやらされて、やっとの事でヒイロに渡されたモノといえば。 ツルハシ。 「ただのツルハシではないぞ。これはあのガンダニュウム合金製じゃ!」 「……。」 黙って、渡されたツルハシをじっと見つめるヒイロに、ドクターJはバシバシとその背を叩いていやらし気に笑う。 「大丈夫、おまえの腕力があれば、こいつをもって道路工事のバイトの一仕事でもやればいい金になるぞぃ」 ─────ここが銃の携帯が許可された国だったなら、きっと即座にドクターJは射殺されていたに違いない。 …結局。 「新入り、ちょっとあっちの地盤が硬いらしい。頼むぜ!」 入った時には、その細い外見に「んなガタイでこの仕事やってられるのか?」といわれたヒイロだが、すぐにその怪力ぶりを発揮して、現場の親父達には瞬間認められてしまっていた。 「…了解した。」 無愛想だが真面目、何故かマイツルハシ持参でバイトに来たこの少年の前にはどんな硬い地盤でも敵はない。 ガツンッ、ガツンッ、ガツンッ。 ドリルさえも通りづらいその地面を、この少年はなんでもないようにガンガン掘り進んで行く。 「すげぇなぁ…あのボーヤ。」 「あぁ…奴ぁ、生まれながらの土方工事の天才だ。」 親父達が何をいおうが、構う事などない。とにかくヒイロは宿代と、帰りのシャトル代を稼がなくてはならないのだ。 *********************** 朝方、デュオは自分の傍に人の気配を感じて起きた。 「ヒイロ?」 寝てはいたものの、ずっと心配をしてくれてたらしいデュオは、すぐに跳び起きるとヒイロの姿を見てほっと笑顔をもらす。 「どうしたんだよ、お前。あいつらんトコに金を借りにいったまま帰らないで…。心配してたんだぜ。」 ちょっとうるうるとしているデュオに、ヒイロの鼓動はどくんと波打つ。 「デュオ…。」 ゆっくりと、その顔を引き寄せてキスをする。 珍しくも、デュオも拒もうとせずに、おとなしく目を閉じてヒイロに応える。 朝方までずっとやっていたバイトの所為で、さすがのヒイロもかなり疲れてはいた。だが、この機を逃したなら、またいつまでお預けをくらう事になるのやら…、それにまだこれくらいなら最近は多少鈍ったものの体力魔神ヒイロ・ユイには致命的ではない。 「ヒイロ?」 唇を開放されてすぐ、耳元へ顔をずらして行くヒイロに、赤くなってデュオが驚く。 「黙ってろ…。」 耳たぶを舐めながらそういえば、デュオの顔は益々赤さを増して行く。 「ちょっと、ヒイロッ、あのさっ…。」 もぞもぞと体を捩って逃げようとするデュオを許さず、ヒイロは寝乱れたゆかたの胸元へ手を入れると、するりと片肩を肌蹴させてしまう。 「やッ…このッ…」 抵抗するデュオも、寝起きのせいか、感じ始めているせいか、あまり力が入っていない。それに気を良くしたヒイロは、もう片方の肩からも襟を落して、完全に晒された胸に愛撫を始める。 「バ…このヤ…ロ。」 憎まれ口しかいわないものの、デュオの息はあがってきていて、顔だけでなく、体のほうも上気して赤みが差してきているようだ。 さらに抵抗した所為で、ゆかたの下の方もかなり乱れてしまったらしく、白い太股が片方、思い切り開いてしまった合せから覗いてしまう。 「ンッ…」 そのデュオの下着だけを脱がせて、ヒイロは下肢に手を伸ばす。こうなればデュオももうまともな抵抗をするどころではなくなってしまう。 「デュオ。」 合図の為に名を呼んで、ゆっくりとデュオの中へと入って行く。瞬間、デュオの体が弓のようにしなって、さらされた肩がビクリと揺れる。 「ア…。」 ヒイロが動き出すと、デュオも細い悲鳴を上げて覆い被さってきたヒイロの背に腕を回す。肩は落されたものの、袖を抜いたわけではないから、抱きついたデュオの腕はまだゆかたの袖が纏われていたままだ。 ウエストの辺りはまだ紐が結ばれたままだから、手を伸ばせばゆかたの上から押さえる形になってしまう。 完全に脱がされているのではなく、こうして中途半端に服を纏っている状態というのはなかなかいいかもしれない。…ヒイロは追い上げる感覚の中そんな事を思う。 やがて、ヒイロもデュオの中で快楽を解き放つと、完全に乱れきったデュオのゆかた姿をしばし鑑賞した後に、ちゃんと着せ直してやってその隣に横になった。 「…ったく、このばか。」 呟くデュオの声と、未だ乱れがちなその息遣いを聞きながら、うとうととしだしたヒイロは、ちょっと幸せを噛み締めた後、すぐに現実へと引き戻される事になる。 「おはようございます!お布団をしまいに参りました!」 明るいおばちゃんの声に頭痛がする。 いくら体力魔神のヒイロであっても、夜通しの肉体労働と帰ってきてからの…では、少しでもいいから眠らせて欲しいというものだ。 眠い目を開けて、朝食を食べ、デュオに事情を話す。 そうしたら、また夕方からはバイトだからそれまではどうにかしても休みたい。 疲れる体を引きずって、ヒイロはぐったり。一方デュオは、朝のハプニングはあったものの、ヤルとなったら決して一度では済まないヒイロに一度だけで済んだせいか、今日も元気にヒイロのいない間の時間の潰し方など考えている。 ──────二人が、彼らの住居であるL1コロニーへ帰れたのは、それから一週間程して、カトルが二人を探し出してくれた時だったという──────。 END |