黒 の 主 〜冒険者の章・2〜





  【7】



――まぁ、ここは無理に倒さなくていいか。

 魔槍があれば倒せていたかもしれないが、あれはある程度のヤバイ事態になるまで出すつもりはなかったし呼んでも間に合わなかった可能性が高い。
 明らかに安堵の空気が漂う中、セイネリアは剣を拾いにガルカダのいた場所に歩いていく。

「すまない、ありがとう、よかった……助かった、あんたのおかげだ」

 いまだに動けない男の声に顔を向ければ、男は服装からして何かの神官のようで、それから集まってきた周囲の面々をみて納得する。
 どうやらここは戦闘補助専門の術者達が待機していた場所だったらしい。服装的に神官と思われる者がまとまっているのだから確定だろう。その所為でやたらと術の援護が多かったという訳だ。まぁ、戦闘自体は追い払っただけだが、個人的には補助魔法がどういう効果があるのか体感出来たのは有益だったかとセイネリアは思う。

「ありがとうございます。本当に……なさけない」

 次にそう言ってこちらの前にまで出てきたのは鎖帷子(チェインメイル)の上に騎士団のサーコートを羽織った3人の男で、ここの支援部隊を守る守護役を命じられた騎士団員だろうと思われた。

「大事な術者が化け鳥のエサにならなくてよかったさ。だが守りに三人じゃ少なすぎだな。……まぁ、状況的には分かるが」

 それ以上は言わなかったが、上の連中もあまりにも敵に手ごたえがなくて舐めていたというところだろう。ぬるい戦闘が続く中、おそらく騎士団内でもそこまでの腕でもない者が護衛に割り当てられたとも考えられる。そうであるなら、あれの相手をいきなりしろと言われた彼らに多少は同情したくなるというものだ。

「ただあいつは樹海から来たんじゃないな。飛んでいった方向からして海の方から来たんだろう。最初からこちらの騒ぎの合間のおこぼれを狙うつもりでな」

 樹海はクリュースの南の国境を海から内陸まで完全に塞ぐように広がっている。更に樹海近くの集落も内陸より海に近いほうが多いというのもあって、今回の討伐の対象地域であるこの辺りもそこそこ海からは近い。

「海、ですか?」
「この辺りにいる奴らのねぐらは海沿いの岩場だ」
「成程……」

 おそらくガルカダを見たのも初めてだったろう騎士たちは感心したように何度も頷く。顔つきからして若いから、やはり騎士団内でも慣れてない下っ端たちだろう。ちなみにセイネリアがガルカダの生息地域を知っていたのはアガネルに言われた後に調べたからだが、折角の多少は手ごたえある化け鳥も樹海の敵ではなかったというのはつまらない話だと思った。

「上に木がない方が安全だと思ったのだろうが、ああいうのも狙ってるというのを忘れないことだな」
「はいっ」

 背筋を伸ばして騎士団の兵三人はセイネリアに礼をしてみせる。あまり腕はありそうにはないが真面目そうではあるから少なくとも次はちゃんと警戒はするだろう。警戒していればこれだけの術者のサポートがあるのだ、そうそう問題になることもない筈だった。

 彼らに軽く手を上げ、セイネリアは森の方へ戻る事にする。
 やる気など全然湧かなかったが、多少は面白い敵がいることを期待して。



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