黒 の 主 〜真実の章〜





  【6】



「この剣だがな、触れた魔法を吸い込んでるらしい」

 セイネリアのその言葉に、魔法使いの少女の眉が更に顰められる。

「えぇ? それってどういうこと?」
「元々この剣がどういう経緯で作られたか考えれば分かると思うが?」

 そうすればアリエラは下を向いて黙って考える。彼女も魔法使いになったのなら魔法使いの秘密を知った筈であるから、この剣がそもそも世界中の魔力を吸い取って封じ込めるために作られたと分かっている筈だ。

「……あぁ、だから、かしら」
「何がだ?」

 何か思い当る事があったのか、アリエラは顔を顰めながらこちらを見た。

「その剣、魔力がある人間ほど持つとまずいらしいのよ。魔力が低い、もしくはないくらいの方が持つ事自体は出来る……と前から言われてたみたい。勿論、剣の主になれるかどうかって話は別よ、単に持って移動させるだけでも魔法使いは触ったらまずいってことらしいわ」

 ならセイネリアが最初からこの剣を見ていても問題なかったのはそのせいなのかもしれない。メルーもそれを知っていたからセイネリアが持てる可能性があると思ったのか。クリムゾンの場合はこの剣を欲しいと思ったせいで付け入られたと考えれば一応納得は出来る。

「でもなんで魔力を吸ってるって思ったの?」
「骸骨どもが襲ってきた時、この剣で叩いた連中は二度と動かなかった。それにあの王の髑髏もだ、叩いたら残っていたらしい王の魔力が消えた」

 どちらもセイネリアはこの剣で叩いただけで、剣から魔力を放出させようとはしていない。

「単に無効化するのかとも思ったが、触れると吸うように見える。メルーが作ったあの結界は簡単に吸えるようなモノじゃなかったようだが」
「そうね……あれは一つの魔法の結界っていうより、いくつもの結界が重なってる感じだったからかも」

 セイネリアはそこで疑問に思う。この剣が出来た当初、世界中の魔力を吸い込んだのだから当時はその吸い込む力というか勢いは相当だった筈だ。だが今は触れたものを吸い込む程度の力で、しかも繋がっている他の魔法さえ吸い込めない。

――ほぼ限界一杯まで吸い込んでいるから吸い込む力が弱いのか、もしくは吸い込む力はギネルセラの魔力で補助していた……あたりか。

「なぁーに、黙ってるの?」

 放っておくとすぐ機嫌が悪くなる少女がそう言ってきたから、セイネリアは肩を竦めた。

「いや、何でもない。次は何を試すかと考えてただけだ」
「まだやるならさっさと決めて頂戴。私だって暇じゃないんだし」

 アリエラの表情はますます嫌そうに顰められる。

「あの女がいなくなって雑用はなくなったんだろ?」
「その代わりオバサンの家は私のモノになったの。掃除は元からやってたけど今まで触らせてもらえなかった資料の整理とか大変なのよ。それに文字も全部読めるようになったから、今まで読めなかった本を全部読まないと」

 本については彼女にとって楽しい事らしく、言葉尻が嬉しそうだった。そういうところは彼女も魔法使いだと思うところだ。

「そういえばアリエラ」
「何よ」

 少しだけ機嫌が直ったのか、聞き返した彼女の声は怒っていない。

「今度俺は傭兵団を作るんだが、お前も入るか?」
「は? ……何言ってるの? じょーだんじゃ……」
「だがきっと、魔法ギルドに相談したら『入っておけ』と言われるぞ」

 そこで彼女はまた眉間に皺を寄せて黙る。それから暫くして溜息を吐く。

「あぁ……言いそう。どうやら連中、貴方の様子を私に探らせたいみたいだし」

 魔法ギルドとしては今、セイネリアを怒らせない範囲でその動向を探らせたいだろうから、当然アリエラがセイネリアの傍にいられるとなればそうしろというだろう。

「まぁ名前だけの所属で、用があったら連絡を取れれば普段はどこにいてもいいぞ。ちゃんと傭兵団の根城を作ってからなら、こっちにくれば部屋と飯は提供してやる」
「……どういうつもり?」
「お前がいれば、こっちは結界張りとか転送とか頼めて便利だ。で、お前も……俺の監視役をしているとなればギルドからいろいろ特例が認められるんだろ?」

 なにせ魔法ギルドにとってこの剣は最重要事項である。この剣の主であるセイネリアと繋がりを持てるとなれば、アリエラにある程度の優遇措置なり、多少いい条件をギルドは出す筈だ。

「……そうね、考えておくわ。でももし入ったからって言ってもあまりアテにしないでよね!」
「あぁ、あくまでお前の都合優先で動いてくれていいぞ。傭兵団に見習いじゃない魔法使いがいる、というのだけでもハクが付く」
「そうね、それは確かね!」

 そこでちょっと得意気にするのが、この少女の分かりやすいところだ。
 その後、彼女にまた結界の壁を出して貰って、剣からの魔法放出の加減を何度か調整してその日は終わった。




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