黒 の 主 〜騎士団の章・二〜





  【40】



 シーナのパーティメンバーに会ってセイネリアはまずこう言った。

「敵と接触したら基本はあんた達の判断で動いてくれていい」

 するとおそらくこのパーティーのサブリーダーである割合重装備の戦士、アグラックがやたら疑わしそうな声で聞いてきた。

「俺達を試すのか? そのために俺達を連れて行くのか?」

 随分警戒されたものだ、とは思ったが自分の冒険者としての噂を知っていれば裏があると思われるのも当然かとセイネリアは思う。多少の思惑はあることはあるが、今回彼らを借りた理由にそこまで深い理由はなかった。

「いや、怪我人がいるのを考えてリパ神官を連れて行きたかった、それならいっそパーティーごと借りようと思っただけだ。あんた達もメンバー一緒の方が動きやすいだろ?」
「ならシーナを外したのは何故だ?」
「騎士団側の奴が誰もいかない訳にはいかないから俺が行く、その場合彼女には全体の監視を頼みたかった。俺も森での生活が長かったからな、足跡くらいは追える」
「……成程」
「あんた達はあんた達のやり方があるだろうからヘタに口出しせず俺はフォローだけで基本戦闘はそっちに任すつもりだ。ただ想定外の問題が起こった場合は別だ」
「分かった、その場合はそっちの指示に従う」

 それでシーナのパーティメンバーとの話は終わりとなって、グティック達を追う事にする。なにせ急いでいるからのんびり話し合いをする程の時間はない。

 騎士団の人間の足跡はシーナの予想通り南の方へと向かっていた。ただ問題は、途中から敷地の柵がなくなって完全に森の中に向かっている事で――落ち葉の上を歩いているせいで足跡の判別が難しい。人が通った跡を見つけてそれを辿る。とはいえ、一方向だけではなく複数方向へ移動している跡があるから、ある程度は予想で動くしかない。
 だがセイネリアはそこである音を聞いた。
 カン、カン、と硬いモノを叩く音。鉄を鉄で叩くような――それが分かれば話は早い。

「こっちだ」

 足跡を追っていたセイネリアは軽く走り出した。
 おそらくこれは、兜を剣の柄あたりで叩いている音だろうとセイネリアは思う。敵が出して誘っている可能性もあるが、グティックが味方を呼ぶために出している音の可能性が高い。

 音はさほど遠くなく、追うのは難しくない。方向さえ分かれば迷う事はなかった。
 そして――。

「隠れろっ」

 先頭を行くセイネリアが言って逃げれば地面に矢が刺さる。それを見て他の連中もそれぞれ隠れた。

「セイネリアかっ?」

 直後にグティックの声が響く。木の影から顔を出せば少し前の木に隠れている彼の姿が見えて、それからずっと先、やはり大木の上に小屋があってどうやらそこに弓持ちの敵がいるらしかった。

「向うの連中が怪我してるっ、敵の弓は2人だと思うっ、どうにか出来るか?」

 確かにグティックより更に向うの木の影にかろうじて例のお荷物連中の姿が見える。
 すると背後の木にそれぞれ隠れたシーナのパーティー連中の気配が動いた。

「これくらいなら任せて貰っていいんだな?」

 確認のように言ってきたアグラックの言葉に、セイネリアは口角を上げる。

「あぁ、任せる。こちらも援護はする」
「頼む」

 すぐ神官の呟きが聞こえてくる。それから重装備の戦士が盾を前にして木から飛び出し、前に向かって走っていく。
 聞こえる呟きは途切れない。これは『盾』の術を持続呪文として掛けているのだろう。術が切れない限りは攻撃を受けないが、術者の息継ぎ等ほんの少しの呪文の切れ間には攻撃を受ける可能性がある。それを装備で補ったアグラックがまず突っ込むというのがこのパーティーの戦闘スタイルなのだろう。

 アグラックは走っていく、敵の小屋から矢が飛んでくるがそれらは悉く弾かれる。

 弓役がそちらに気を取られているのを見て、セイネリアは木の影で弓の準備をする。どうせ呼べばくるから魔槍はおいてきていた、代わりに殺した敵の弓兵から弓と矢をもらってきたのだが……この弓だと敵の位置まで届くかはぎりぎりというところだ。試し打ちもしていないから当てるのはかなり難しい。それでも、突っ込んで行ったアグラックへの援護程度にはなる。
 セイネリアが矢を放てばそれは敵の小屋の壁、弓兵の一人の下辺りに当たる。それで驚いたその弓兵がこちらに向けて撃ってくる。それは隠れている木に当たって、なかなかいい腕だとセイネリアは思う。
 セイネリアもすぐにまた相手に向かって矢を撃った。今度は先程よりも近いが、敵は壁に隠れるよう身を屈めているから当てにくい。それに合わせて向うもまたこちらを狙ってくる。ただこれは狙い通りで、少なくともアグラックを撃つ弓は1人だけになった事になる。
 とはいえ誤算もあった、これなら光石のついた矢を後衛連中から1本でも貰ってきておけば良かったとセイネリアは思う。今から矢を作る余裕はないから諦めるしかないが、あれば楽に落せた筈だった。




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