黒 の 主 〜騎士団の章・一〜





  【7】



「あー……お前、最初からえらくキモ据わったやつだと思ったが、実際冒険者時代はかなり派手な仕事してたみたいだな」
「まぁな」
「その若さで上級冒険者ってのは本当か?」
「あぁ」
「師がナスロウ卿ってのは?」
「そっちも本当だ」

 そこで相手は暫く黙る。セイネリアも向うも黙々と食べる。

「なら……今の騎士団を見てムカついてたりする訳か」

 ナスロウ卿の噂からすれば、それは聞かれて当然といえば当然か。ただ問題はこの男がどうしてそんな事を聞いてきたかだ。

「別に、腐ってるとは思うがムカ付きはしない」
「どうにかしてやろうとか思ってる訳ではないのか?」
「ないな、ここが腐ってるのはここにいる連中の問題だ。俺がここにいるのは限られた間だけだし、ここがどうなろうが知った事じゃない。あんた達だってそうだろ?」

 そこでまた一度沈黙が下りる。セイネリアは食べ終わって水袋の水を飲んだ。

「そう言われればそうだが……まぁ分かった、お前はそういうつもりなんだな」

 向うもそこで食べ終わったらしく、水を飲んで口を拭うと立ち上がった。

「正直言うとな、少しがっかりした。なんかいろいろ企んでそうな面してやがったからよ」

 嫌味のような笑顔をわざわざ向けてそんな事を言ってくる男に、セイネリアは見せつけるように溜息を付いてみせた。

「勝手に期待して貰っても困る。ここがこのままで嫌だと思うなら、そう思う連中が動けばいい。他人を頼るな」

 つまるところ、もともとはこの男もそれなりに高い志というのを持っていて、ここの現状に憤りを感じていたのだろう。けれども諦めた。自分では変えられないと悟って、ここのやり方に馴染むしかなかった……大方、そんなところだろう。

「……あぁ、そうだな」

 だからその言葉は自嘲的で、男は自分に向けたろう皮肉げな笑みを唇に乗せる。
 だがそれで立ち去ろうとした男に、セイネリアは追加で言っておいた。

「ここをどうにかしようなんて高尚な事は何も考えていないが一つだけ教えておく。……今まで俺の敵となった人間は皆敵対したことを後悔する目に合わせてきた。たとえどんな立場の人間でもあってもだ」

 男は僅かに目を見開く。それからくくっと小さく笑って、そうして捨てセリフと共にその場を去った。

「あぁ分かった、覚えておく」

 その後ろ姿を見て、セイネリアは呆れながらも考える。

――言っておくがジジイ、俺はあんたの意思を継いで騎士団をどうこうしようなんて思ってないからな。

 この国を良くしようなんて思わない。他人の分まで生きやすくしてやる気などない。だからここに居ても俺に妙な夢を見たりするなよと、もう今はいない老騎士に向けてセイネリアは呟いた。







 食事が終わるとそのまま調査に出発となる。文句を言いながらも一応は並んで歩き出したところからして、仕事自体はちゃんとするらしいとセイネリアはある意味感心した。

「お前は力自慢らしいからな、これ持ってくれるか」

 例によってセイネリアは重そうな荷物を押し付けられたが、別にこの程度の荷物が増えたところで問題はないから快く(見えるように笑って)受け取った。重さからして特に道具とかではなく重りのための砂袋あたりだろうが、セイネリアとしてはこれくらい持って歩かないと訓練にもならないから丁度良いとも言える。

 先頭はバルドーで、その後ろに2列でついている4人は嫌がらせに加担していない連中だからバルドーと親しい連中――この隊でのリーダーグループというところだろう。その後には見覚えのある嫌がらせをしていた馬鹿グループが続いて、最後尾がセイネリアとなっていた。
 小川沿いの道は狭く、山に入ればさらに歩けるは道幅は狭くなるから基本は一列で進む事になる。山道慣れしていない者もいるのか馬鹿グループの誰かが斜面を上る途中で休憩をしていたから、セイネリアは無視してさっさとその横を上がった。おかげで登り切ったところで遅れている連中を待って休憩となったが、さすがにリーダーグループの連中は脱落していないあたり能力的にも彼らは出来る連中なのだろう。
 ただそこで一息ついて辺りを見渡したセイネリアは、違和感を感じて呟いた。

「静かだな」

 言いながらも周囲を見る。一つ気付けば次々不審なところに気が付いて、セイネリアは長剣のロックを外した。



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