黒 の 主 〜冒険者の章・八〜





  【34】



 シャサバル砦からキエナシェールの街にある領主の館までは、冒険者の足で歩いてだいたい半日というところだ。盗賊たちを開放した次の日の早朝に出てきたセイネリア達は、その日の昼過ぎに館に着くことが出来た。
 砦には鳥使いがいるから、領主の館とは基本鳥を使って手紙のやりとりをしている。緊急時の手段も勿論あるが今回はそこまでの重要事項でも急ぎでもないため、普通に鳥で手紙を前日に送っておいてあった。

 館につけば、あらかじめ連絡しておいただけあって部屋も食事の準備も出来ていて、遅い昼食がてら早速ザラッツと、一緒に砦からついてきたレッキオも込みでの作戦会議をすることとなった。

「盗賊を雇っていたのはスザーナだというのですね」

 まず最初の報告として、セイネリアが見てきた盗賊たちが集められていた場所の事を話せば、ザラッツは冷静に聞き返してきた。

「あぁ、スザーナ領内のザウラとグローディの国境近くに盗賊たちの拠点があって、そこにいかにも正規兵らしい連中がいた。いくら何でもスザーナの領地内にあそこまでちゃんとした施設を他領の意図で作ったとは思い難い、スザーナが作ったものと見ていいだろう」
「まぁ……そうですね。スザーナとザウラがはっきり同盟を組んだという話は出ていませんし……」
「もしザウラ側が作っていたなら、スザーナとザウラ両方の兵がいるんじゃないか。それっぽい連中は同じような恰好のしか見なかった」

 ザラッツは少し考えた後に聞き返す。

「白い鳥の紋章が見えたか……緑のサーコートを着ていませんでしたか? どちらかが当てはまればスザーナ兵です」
「深い緑のサーコートは着ていたな。胸に何か描いてはあったがマントであまりよく見えなかった」
「ならおそらくスザーナ兵でいいと思います」

 状況的に見て恐らくそれでいいとは思うが、それでも確定とまでは言い切らない。あくまで9割方スザーナと見ていいという話だ。だがそれはこれから確定できる話であるから焦る必要はない。

「ただここにいても情報が足りない、実際スザーナに行ってみるべきだと思ってる」
「成程、だからスザーナに行くつもりだと書いてあった訳ですね」

 ここからスザーナに行くことまでは手紙に書いてあったから、ザラッツもそれには驚かなかった。

「あぁ、とはいえただ俺が行っても向こうの領主周りを調べるのは難しい」
「それはそうでしょう」
「だから、ディエナ嬢を使節として派遣する、という形に出来ないか?」

 さすがにそれにはザラッツも驚いて一瞬、言葉に詰まる。

「スザーナとザウラが組んでいると考えれば、ザウラの人間と婚約しているディエナ嬢は現在、グローディ卿の身内で一番暗殺される可能性が低いし年齢的にも適任だろう。俺達はその護衛という形でついていく」

 ディエナとザウラの馬鹿息子を結婚させてグローディを乗っ取る気なら、むしろ彼女の身の安全はスザーナ側では何が何でも保証しないといけないくらいだ。だからこそ彼女は敵地に置いて一番安全と言える。

「建前として、最近頻出するようになった盗賊について話し合いたい……と言う事にしておけば向こうも拒否は出来ないだろ」
「確かに……使節を送るとすればディエナ様しかいないと……思います。ただこちらが盗賊討伐をした後でその理由は探りにきたというのがあからさまに分かるのではないですか?」
「別に構わんだろ、どちらにしろスザーナとしては使節を拒否はできないし、ディエナ嬢に危害を加える訳にはいかない。……ただ一つ、不安な点があるが」
「それは?」

 ただでさえ考え込んでいたザラッツが更に眉を寄せて聞いてくる。

「この手の調査となればカリンを連れて行きたい。だが、この状況でカリンを子供らの護衛から外すのは不安がある」

 それにザラッツは大きくため息をついた。

「実は、彼女には2人程怪しい者を見つけてもらっているので……私どもで守るから大丈夫と強く言えないのが情けないところです。私も正直グローディ卿をお守りするので手一杯で……」

 ただの情報目的か、暗殺者か、どちらにしろやはりここまで相手側は手をまわしてはいたらしい。となるとここから向こうの立場が悪くなればなるほど性急な手でくる可能性は上がる、グローディ卿の身内で残った唯一の男子であるスオートが危険なのは確実だ。

「なら、手っ取り早くて確実な手を使おう」

 そこでセイネリアが言った提案に、ザラッツはまた目を丸くすることになった。



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