黒 の 主 〜冒険者の章・八〜





  【4】



 グローディ領は裕福とまではいかないが貧乏という程でもなく(シェリザ卿に負けた直後は厳しい状況だったらしいが)、地位としてはそこそこ普通にやっていけている程度の領地といったところだ。領内は森や山が多いのが特徴で、一言でいえば田舎なのだがいい材木が取れて農業より狩猟が盛んな地域である。また領都であるキエナシェール周辺は山に囲まれた盆地で果樹園が結構ある。後は冒険者にとってはそこまで危険ではないがのんびり稼げる程度の場所が多くあることと、首都からは多少離れてはいるが交通の便はいいという事でここを拠点にするものも結構いて、それなりに活気があってそこそこ栄えている、といったところ評価の場所だ。

 現状まだグローディ卿は家督を息子に譲ってはいないが既に次期グローディ卿である息子が領主としての仕事のほとんどやっているというのは有名な話で、グローディ卿本人は割と気楽に半隠居生活をして首都にいる事も多い――というのがグローディ家の事情だった筈、なのだが。

 その次期グローディ卿である息子のロスハンが死亡した、というのがグローディ卿の屋敷に着いて仕事の話の前にまず言われた言葉だった。

「死因は、盗賊に襲われたから、か」

 護衛と盗賊討伐なんて依頼内容ならそれはほぼ確定だろう――そう思ってセイネリアが尋ねれば、それはあっさり肯定される。

「そうです」

 重い声で答えたのは騎士ザラッツだった。
 今回の仕事についても説明役は彼という事で、屋敷についた途端通された部屋では既に待っていて彼が出迎えてくれた。ただ、彼が説明をするのはいいとしてもグローディ卿が顔さえ見せないのは不審に思っていたから、その話だけでセイネリアはいろいろ予想して納得した。

「ならグローディ卿はショックで寝込んでいる、というところか」
「はい……その通りです」

 ここまで聞けばそれだけで相当マズイ状況だというのは分かる。なにせこの仕事を受けてからセイネリアはグローディ領周囲に関する情報をある程度集めてはきた。なのにロスハンが死んだという話は入ってきていない。それはつまりまだ公にしていないということで、隠すには隠すだけの理由がある筈だった。

「それはもしかしたら、ザウラ卿が代替わりしたことと関係あるのか?」

 こちらで入手している情報で一番関連がありそうな内容を言えば、ずっと重い顔をしていたザラッツが驚いてこちらを凝視してくる。

「当たりか」

 ザラッツの顔が益々苦く顰められる。それから彼は一度大きく息を吐き出すと、姿勢を正して真っすぐセイネリアを見つめて言った。

「……とにかく、まずは筋道を立ててここまでの経緯を話しましょう」
「そうしてくれ」

 セイネリアがそれで深く椅子に腰かければザラッツも椅子に座って他の面々にも座るように促し、全員が座ったところで彼は静かに話し始めた。

 事の発端はザウラ卿が病気で急逝し、長男であるスローデンが新領主となったと連絡が入った事に始まる。
 ザウラ卿とグローディ卿は元から友好関係にあったから、領主の病気の知らせがくる事もなく、しかも葬儀も飛ばしていきなり新領主式典への招待状――というのはどう考えても不審点が多すぎたが、それでも招待されれば出席をしない訳にもいかない。当時その報を聞いてグローディ卿が相当に落ち込んでいたというのもあるが、結局は息子であるロスハンが出席する事になった。
 式は特に問題もなく、新領主となったスローデンとは今後も友好関係を続けていこうという話をして、ロスハン達一行は無事帰路についたの……だが。

「その帰りに盗賊に襲われたのか」
「そうです」

 グローディ領からザウラ領の領都クバンの街へ行くには、途中で少しだけスザーナ領を通る必要がある。その為その周囲の警備責任がどの領地にあるかあやふやになっているというのもあって、昔からよく盗賊が現れる場所とはなっていた。
 だがそれも前回、セイネリアが相当に潰して、しかも脅しておいたからこんな短時間でいきなりそこまで増えてるとは思い難い。

――いや、逆に一気に盗賊がいなくなったからこそ、まったく新しい連中が来た可能性はあるか。

 盗賊がよく出ているような場所では、盗賊同士でけん制しあって縄張り争いをしているものだ。となればそいつらがこぞっていなくなれば、空いた場所へ新しい連中が来ることは十分考えられはする、が……。



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